山形地方裁判所 昭和44年(タ)19号 判決 1970年3月25日
原告 田口ミツ子
被告 田口一郎
主文
原告と被告を離婚する。
原告と被告間の長男田口一(昭和三十八年五月十九日生)の親権者を原告と定める。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告
主文同旨の判決
二、被告
原告の請求どおりの判決
第二、当事者の事実上の主張
一、請求原因
(一) 原告と被告は昭和三十七年三月事実上の婚姻をして同棲し同年七月二日婚姻の届をなした。
(二) 昭和三十八年五月十九日原・被告間に長男一が出生した。
(三) 然るに被告は昭和四十三年春頃から訴外水野花子と懇を通じ、昼間は自宅にいるが、日が暮れると同女のもとに行って泊るという生活を続けたが、これは民法第七百七十条第一項第一号の不貞な行為に該当する。
(四) 更に、同四十三年六月被告は旅行に行くといい置いて自宅を出たまま音信をなさず、今日まで帰宅もせず、生活費の送金もしない。これは明らかに右同条第一項第二号の悪意の遺棄に該当する。
(五) その後被告は宮城県にて窃盗を働き、懲役に処せられ、目下山形刑務所で服役中であることが判明したので、山形家庭裁判所に対し、同庁昭和四四年(家イ)第一八七号離婚等の家事調停を申立てたが不調に終った。
(六) 以上のとおり民法第七百七十条第一項第一、二号に該当するから原告と被告との離婚を求めるとともに、両名の間に生れた未成年の子田口一は原告において養育しているのでその親権者を原告と定める旨の裁判を求める。
二、答弁
請求原因の事実は全部認める。
第三、証拠≪省略≫
理由
一、≪証拠省略≫を綜合すると
原告と被告は昭和三十七年三月事実上の婚姻をして同棲し、同年七月二日に婚姻届をなし、同三十八年五月十九日に両名間に長男一が出生した。その後原告と被告は、原告と被告の母(姑)との不和に端を発し、次第に不和が募り、被告はやけ酒を飲んで憂さ晴らしをしているうち酒場の女性訴外水野花子に近づくようになり、やがて同女と性的関係をもつこととなった。
被告は、その後行先を告げず家を出たまま、妻子をかえりみず、生活費さえも送らずに月日が過ぎるうち、窃盗の罪を犯して処刑され、現在山形刑務所において服役中である(記録上明らかである)。その刑期は来年まで続くところ、「一」は現在原告の許において養育されているが、刑期の続く限りそうせざるを得ないことが認められる。
以上の事実によれば、原告主張の各法条に該当するというべきであるが、更に被告は原告の請求自体を認容しているので次にこの点について考える。
二、人事訴訟法によれば、その第十条において、民事訴訟法第二百三条中請求の認諾に関する規定は婚姻事件にこれを適用しない旨を規定しているが、これは人事訴訟ではその対象となる事件は、当事者の任意処分が許されない関係にあるが為であるが、離婚については従来民法は原因の如何を問わず当事者の自由な合意のみによる協議離婚を認めて居り、又家事審判法は調停離婚なる当事者の合意に基づく離婚を認めていることに鑑みると離婚については夫婦の自由意思による処分が可能な私的関係と解すべきである。そうすれば裁判上においても各当事者の自由な訴訟活動によって婚姻関係を処分することができるものと解すべきである。よって離婚に関しては請求の認諾も許されるものと解すべく、従って本件においても離婚の請求につき、被告がこれに合意する意思を表示する以上、前記一に認定した事実が仮になかったとしても原告と被告の離婚を認容するのが相当であると考える。
三、原、被告間の長男「一」のおかれている現状が、右一に認めた事情のもとにおいては、その親権者を原告と定めることが実情にも合致し、「一」自身にとっても幸福であると考えるので、右一の親権者を原告と定めることとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤巻曻)